ブロックチェーンをとりまく状況について、多くの刺激を受ける一冊でした。
本書の構成は冒頭の未来SF風ストーリーをきっかけとして、近い未来に訪れる「貨幣経済の衰退」「専門分化の衰退」「国家の衰退」の可能性を分析しています。
【目次】
プロローグ――貨幣経済は衰退しました
第1章 ブロックチェーンって何だ?
注目されるブロックチェーン
ブロックチェーンとブラウン管は似ている?
「証明」の手段としての新聞――すべてはタイムズ紙の見出しから始まった
ビットコインの「問い」と「補題」 ほか
第2章「信用」の歴史――口約束から契約へ、契約からコードへ
心の理論
原始の約束
全体主義的農耕の始まり
職業人という名の奴隷 ほか
第3章「信用」と「裏切り」――ビザンチン将軍問題をめぐって
ビザンチン将軍問題の背景
ビザンチン将軍問題とはどんな問題か
ビザンチン将軍問題を解く ─ 司令、攻撃やめるってよ ほか
第4章 ブロックチェーンの可能性と不可能性
応用可能性が花開いた
続々と行われる実証実験――醒める狂騒
人類史に残る新しい会社の出現
地球規模オペレーティングシステム ほか
第5章「信用」の新世紀 ─ 社会はどこに向かっていくのか
「貨幣経済は衰退しました」のリアリティ
貨幣と会計の変化
「貨幣」と「専門分化」と「国家」が三つ巴で衰退する
限界費用ゼロかつ専門未分化社会の衝撃 ほか
エピローグ――フレンズ
特に「貨幣経済の衰退」の可能性はにわかにイメージしがたいところですが、著者の主張としては「物質・エネルギー」と「知識」を変数として富を最大化することができるという点にあり、これを社会インフラとして今後どのように実現していくか(実現しようとしているか)、そこにブロックチェーン技術がどのように使われていくのかという未来予測は非常に興味深いです。ビットコインの普及はそのような時代のスタート地点に過ぎないのかもしれません。
そのような時代になったときに「会計」の機能がどのように位置づけられるかについて、著者はこのように主張します。
旧来のアカウンティングが、企業の事業活動を定量的にモデル化した情報を提供、あるいは分析するためのプロセスだったとするならば、これからのそれは、地球規模OS上のアプリケーションの動作状況を定量的にモデル化し、その情報提供と分析とにより社会にフィードバックをかけるプロセスであると言えるだろう。
しかし、そうした活動の様子は、どのように定量化できるのだろうか。 問題を、私たちの社会の「富」の量や質がどのように推移しているのかを定量的に把握することだと置き換えて考えれば、すでにフラーによる富の定義によって道は示されている。すなわち、「物質・エネルギー」および「知識」を定量化し、その推移を追跡・分析するのである。それが未来の新しいアカウンティングの姿だろう。
斉藤賢爾.信用の新世紀 ブロックチェーン後の未来(NextPublishing)(Kindleの位置No.2048-2055).インプレスR&D.Kindle版
500年続いた会計機能の位置づけが大きく転換期を迎えるのかもしれないと思うとわくわくします。本書で随所に参照されていた「負債論」もだいぶ昔に購入して積読状態ですが、がんばって読んでみたいと思います。
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いよいよ本丸が来たという感じでしょうか。ほぼ同じタイミングでIFRS任意適用のリリースが出てきました。
日本電信電話(NTT持株会社) 米国基準→IFRS
NTTドコモ 米国基準→IFRS
エヌ・ティ・ティ・データ 日本基準→IFRS
エヌ・ティ・ティ都市開発 日本基準→IFRS
各社ニュースリリース
http://www.ntt.co.jp/news2018/1803/180329a.html
https://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/2018/03/29_01.html
http://www.nttdata.com/jp/ja/news/release/2018/032901.html
https://www.nttud.co.jp/ir/news/n22657.html
NTTデータグループはIFRS導入支援サービスを長きにわたって提供してますが、範を垂れる意味も込めて自社でも準備していたということでしょうか。かつての古巣(グループ会社ですが)にいた身としては感慨深いものがあります。どうでもいいですが会社名表記は「エヌ・ティ・ティ・データ」が正しいことを中の人になるまで知らなかったことを念のため申し添えます。ドコモのほうは「NTT」表記なので統一性がありませんが、いろいろ内部でのせめぎ合いの結果なのでしょう。
ともあれ、名だたる大企業が任意適用に踏み出すことで、強制適用を待たずしてIFRS適用の地ならしが一気に進むのではないかと思われます。すでに170社を超えた実績がありますし、日本もようやくですが国際化・標準化の流れに追いつきつつあるといえるのではないでしょうか。
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国税庁のウェブサイトが2018年3月31日にリニューアルされましたが、うまく機能していないようです。
国税庁Webサイト、全URL変更で混乱 サイト内検索も役立たず、「無限ループ」状態にhttp://www.itmedia.co.jp/news/articles/1804/02/news108.html
国税庁ホームページリニューアルのお知らせ
https://www.nta.go.jp/information/other/data/h29/renewal/index.htm
新しい ウェブ サイトでは右上の検索窓でキーワード入力して検索できる仕組みになっているものの、すべての検索結果のページが数秒後にトップページにリダイレクトされてしまい、必要な情報が掲載されているページにたどり着くことができず、またこれまでブックマークしていたページも辿ることができないという状態に陥りました。国税庁により検索結果の蓄積が行われるまで数週間の猶予が必要な旨がアナウンスされる一方、有志により新旧URLの変換サービスが提供されるなど、混乱が続いています。
サイト内検索について(国税庁)
https://www.nta.go.jp/information/other/data/h30/renewal/index.htm
「国税庁URL変換器」個人が開発 旧URLから新ページにアクセス リニューアルの混乱受け(IT media)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1804/03/news075.html
ちなみに、日本公認会計士協会のウェブサイトも2018年4月1日にリニューアルされていますが、こちらも旧URLが切れてしまっているなど適切な移行が行われていないようです。
「日本公認会計士協会ウェブサイトをリニューアルいたしました(日本公認会計士協会)」 (会計ニュース・コレクター)
http://ivory.ap.teacup.com/kaikeinews/12108.html
今回のような問題が起きた原因として、大きく二つが考えられます。
まず、 発注側が構築側である開発ベンダーにシステム機能仕様を正しく伝えていたかどうかという問題。入札案件ですので仕様書は作成されているものの、プロジェクト開始後の要件定義の過程で細かな機能の確認がなされず、このような実装になったことが推測されます。
次に、テストの時(特に受入テストの時)に正しく機能が検証されていたかという問題。仕様に反映されていなければ検証のしようがないですが、仮に仕様に反映されていたとしても、今回のように検索結果の画面遷移が正しく行われるかどうかを含めてテストケースが必要十分な品質で作成されていたかは疑問が残ります。クローリングに一定の時間がかかるのであればその時間を見込んでテスト期間を設定すべきところですが、そのようなスケジュールが組まれていなかった可能性があります。
いずれにしても、システム導入プロジェクトのどこかで、発注側又は構築側のどちらかの手続に不備があったため期待された品質を満たさなかったのではないかと想像されます。
このような状況に陥らないためにどのような対策を打てば良いのでしょうか?
一つは発注側が(特に要件定義フェーズにおいて)正しく仕様を表現して構築側に伝えること。二つは、構築側が仕様書に表現しきれていない細かな機能品質について、発注側と連携して細かく協議を行って仕様の漏れを防ぐことでしょう。
また、今回のような状況を生んでしまった背景として、国税庁や日本公認会計士協会のような「情報を蓄積すること」がウェブサイトの価値であるということが正しく認識されていなかったのではないかという懸念があります。公認会計士や税理士といった会計専門家に限らず、ウェブサイトに記載されている様々なリファレンス情報は納税者を始めとした多くの利用者に情報提供することが一つの目的としてあるはずですが、必要な情報資源にアクセスできないような状況を生んでしまうということはそのような自らの役割を軽視している部分が少なからずあるのではないかと想像しております。事態が早々に収束することを見守りたいと思います。
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竹村純也先生の新刊です。
企業結合関連の会計基準はとにかく膨大で複雑な印象があって苦手なんどえすが、書影にもある著者のオリジナル「パーチェス・ジャーニー」という一枚の絵がとにかく理解を助けてくれます。本書の構成もこの「パーチェス・ジャーニー」に基づいており、わずか一枚の絵で本書のコンセプトをほぼ完璧に網羅しているのは感嘆しました。
本書の「あとがき」によれば、本書執筆にあたり留意された点は
とのこと。特に第5章の「「何を」取得したか(株式の一部を現金購入するM&A編)」では、間違えやすい会計上の論点がすっきりまとまっており、頭の整理が進みます。設例もふんだんに用意されていておすすめの一冊です。
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企業会計基準委員会より、以下の文書が2018年3月30日に公表されました。
https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/accounting_standards/y2018/2018-0330.html
いわゆるIFRS15号(顧客との契約から生じる収益)や、Topic 606(Revenue From Contracts With Customers)に対応する形で、我が国の収益認識基準の改訂が行われた形になります。
本基準の適用タイミングは以下のとおりで、最速では2018年12月31日を決算日とする企業で適用することができます。
適用初年度にあたっては以下のいずれかの取扱いになるため、業務への影響が大きくなります。
この基準が適用されることにより、以下の基準は廃止される予定です。
収益認識の包括的な基準が策定されることで、いわゆる工事進行基準が廃止されることになります。役務提供型で収益認識するビジネスモデルの企業(システムインテグレーター、ソフトウェアベンダー、コンサルティング会社など)には影響が大きいものと予想されます。
収益認識基準は分量がとにかく膨大なので、ポイントを絞り込んで読み解く必要があります。当事務所では特にIT企業向けに「収益認識基準はここだけ読んでおこう」というポイントをまとめました。以下リンクより無料で入手できますので、お気軽にお申込みください。
(別サイトに移動します)
仮想通貨関連エントリの続きです。
仮想通貨(本来は暗号通貨というべきでしょうが)の企業会計におけるルールがようやく確定しつつあるようです。年末以降状況は激変しましたが、企業会計・所得税・消費税と揃ってきたので残るは法人税のみでしょうか。
「仮想通貨利用の会計ルール決定 ASBJ(日経より)」 (会計ニュース・コレクター)
http://ivory.ap.teacup.com/kaikeinews/12009.html
仮想通貨利用者側に関しての公開草案のポイントは以下の内容です。
仮想通貨交換業者側に関してのポイントは以下の内容です。
実務対応報告公開草案第53号「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い(案)」に寄せられたコメント
https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/exposure_draft/y2017/2017-1206/comment.html
https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/20171206_CL08.pdf
件のMUFJのコメントはこのような内容でした。
ただし、発行会社(交換業者を兼ねる場合を含む)が将来に渡り発行した仮想通貨と法定通貨を交換することを保証しているため、発行に係る負債を計上し続ける場合の、発行会社における当該発行した仮想通貨の会計処理は除く。
ICOについてはまだ不透明な状況でもあるのでまずは対象外とし、今後ルール整備を決めていくというストーリーのようです。本基準は平成 30 年 4 月1日以後開始する事業年度の期首から適用だそうなので、実務が先行(あるいは混乱)する状況であまり時間がないなか、大急ぎで策定したように見えます。
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確定申告の逃避エントリです。
週刊「経営財務」No.3349号で「サイバーセキュリティ開示の新基準」という記事が紹介されていたため、原文を見にいってみました。
SEC publishes new requirements for cybersecurity disclosures
https://www.journalofaccountancy.com/news/2018/feb/sec-cybersecurity-disclosures-201818424.html
guidance(PDF)
https://www.sec.gov/rules/interp/2018/33-10459.pdf
記事の一部を引用します。
When companies become aware of a cybersecurity incident or risk that would be material to investors, they are required to make appropriate disclosures in a timely manner, before the offer and sale of securities, the SEC said. In addition, steps should be taken to prevent directors, officers, and other corporate insiders from trading in company securities until investors are appropriately informed.
The guidance also includes issues for companies to consider as they evaluate disclosure of cybersecurity risk factors. In the management discussion and analysis, meanwhile, the SEC states that companies may need to disclose costs and risks related to cybersecurity, as well as the costs of combating cyberattacks.
In addition, the guidance discusses the potential effects of cybersecurity risk on the definition of a business, disclosures of legal proceedings, financial statement disclosures, and disclosures of board risk oversight.
新規の株式発行においても重要なサイバーセキュリティリスクやインシデントについては適時開示を求めるといった内容で、具体的には「事業へのサイバーセキュリティリスクの潜在的な影響」「法的手続の開示」「財務報告の開示」「経営陣によるリスク監視体制の開示」などに及びます。開示といってもたんなる作文ではなく、当然のごとく開示の背景にはサイバーセキュリティ対策の整備運用が求められるでしょうから、それなりにパワーがかかる開示になるのでしょう。
日本ではまだ開示は義務化されていませんが、任意で開示している会社も増えておりいずれ同様の制度設計が行われるのだろうと予想されます。開示項目は増える一方ですね。
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確定申告シーズン真っ只中です。
職掌柄この季節によく拝見するようになったのが、ふるさと納税の寄附金受領証明書です。寄附内容を証明するために自治体が発行する証明書類なのですが、クライアントからお預かりした書類をちまちま画面で入力したりハサミとノリで切り貼りしたりしながら、これらの書式のあまりの統一性のなさに頭を抱えています。
確定申告で必要になる入力情報は「証明書の日付」「自治体名称」「金額」なので、これらの情報が共通化された書式が全国に展開されていればいいわけで、制度開始時にそれが行われていれば事務処理もスムーズだったはず。そういう対応がなされなかったために、書式自体に各自治体が妙に個性を発揮してしまい、結果的に統一性のないカオスな書式が大量に世の中に流通するという事態になっています。自治体によって「切り取り線のあるなし」「御礼文言のあるなし」「住所記載のあるなし」と見事にバラバラ。これって相当な社会コストの浪費なのではないでしょうか。
そもそも証明情報を自治体から紙で郵送してもらう、というのも前時代的な気がします。そもそもあえて
というまわりくどい手順を取る理由はないはずで、たとえばせっかくマイナンバーがあるのですから(マイナンバー制度の是非はさておき)、たとえば
といった仕組みにすればいいし、もっといえば本人同意のうえで寄附情報を自治体から税務署に直接送信すれば納税者の負担もほとんどなくなるでしょう。紙に依存したフローはいかにも役所らしく、その前提から解放されるのは困難だと想像しますが、検討ぐらいは進めてほしいものです。
ふるさと納税制度それ自体には個人的には懐疑的なので改善を図ってほしいのですが、運用にも大きな改善機会があるように思えます。ともあれ、そんなことを考えつつしばらくはこの不毛な紙とハサミとノリのアナログな作業を続けることになりそうです。
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年末調整や法定調書の季節も一段落したところで、マイナンバーについてつらつらと振り返ってみました。
今回も従業員や報酬支払先のマイナンバーを収集するという事務作業が多く発生したわけですが、今回の収集方法は大別すると
という形態に分かれました。
マイナンバー管理サービスも普及してきているものの、圧倒的に多いのはやはり「紙で提出」で、安全管理義務を考えると管理もしやすく廃棄も容易なので保守的になってしまうようです。電子データで提出されると管理は慎重になりますし、安全対策に頭を悩ますことになります。
また提出形式は
といったパターンに分かれ、圧倒的に居多いのは「通知カード+写真つき身元確認書類」でした。中には通知カードを紛失していたり身元確認書類を揃えられなかったりといった方もいたりして、終盤になるとどたばたしておりました。
本来マイナンバー制度って各自に付与された番号を使って行政サービスはじめさまざまな利便性を享受できるように設計された制度だったはずですが、現状ではマイナンバーカードの普及率も10%程度とのことで、通知カードと身元確認書類(だいたいは紙で提出)の組み合わせを強制した結果運用が煩雑になってしまいました。さらには「マイナンバー申請用紙」なる指定書式をわざわざ使う企業もあったりしてもはやなんのためのマイナンバーなのかよくわからない状況になってます。こういう紙書類の事務を増やすのが目的の制度ではなかったと思うのですが。わざと使いにくい制度にしているのは普及させたくないという意図でもあるのではないかと勘繰りたくなってしまいます。
個人を識別する番号なので管理はできるだけ厳重にするという一方で行政手続には提出を求めるという矛盾した制度設計はこの際緩和して、利便性を高める方向に倒していかないと、ゆくゆくは住基ネットのように誰も使わなくなり事務的に面倒なだけの仕組みで終わってしまうでしょう。「日本のマイナンバー制度は失敗なのか?」でも書きましたが、
は最低限満たしたうえで、もっと手軽に使えるようにしてもらいたいものです。
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旬刊「経理情報」2018年2月10日増大号(No.1503)に 記事
『クラウドサービスの利用でIT統制・監査対応はこうする』
を寄稿しました。
ユーザー企業がクラウドサービスを利用する際に留意するポイントについて解説しています。
ご一読いただければ幸甚です。
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