FinTechへの対応について(中間報告)を読んでみた

水曜日 , 26, 7月 2017 FinTechへの対応について(中間報告)を読んでみた はコメントを受け付けていません

夏になりました。こういう日はあまり仕事せずかき氷とか食べて室内でのんびり過ごしていたいところですが、なかなかそうはいきません。

さて、全国各地にある税理士会を束ねる団体として日本税理士会連合会(日税連)がありますが、7月12日にこのような報告資料が公表されております。

日本税理士会連合会: FinTechへの対応について(中間報告)
http://www.nichizeiren.or.jp/datalibrary/consultation/others/170712d/

日本税理士会連合会は、FinTechの進展に伴う金融サービスの変革によって、税理士の業務にも少なからず影響が生じてくるものと思われることから、FinTechが及ぼす影響とその対応について中間報告を取りまとめました。

とのことなので、中身を読んでみたのですが、いくつか気になる記述が。

将来的に、会計業務(特に記帳代行業務)については、人工知能を活用したクラウド会計ソフトによって、相当部分が自動化され伝票起票、データ入力の業務が省力化されることは確実であり、企業の経理担当者、会計事務所に係る雇用が大きく削減されるとも言われている。

これはまあそのとおりかと。

しかし、データ入力まで自動化されたとしても、経理担当者や会計事務所による会計処理に係る入力確認、税理士等による試算表及び決算書の作成時の確認は変わらず必要になるものと考えられる。

これは認識がやや甘いかと思いました。人間によるチェックが当面は続くという点は確かにそうかもしれませんが、将来的に入力確認やチェック自体が自動化される可能性は十分あると思います。

金融機関と特定の税理士法人、金融機関と既存ベンダーと税理士法人等という組合せも想定される。これまでも問題視してきたところであるが、金融機関が所謂一本釣りをした税理士法人を取引先企業に紹介することで、既存の顧問税理士との間でトラブルになるというケースが増加する蓋然性がある。
一般的に、融資を受けている企業にとって、金融機関は圧倒的な優越的地位にある。そのような金融機関からの提案を企業が拒否することは容易ではない。まして顧問税理士を飛び越えた営業・提案を行われた場合、経営者は企業にとって極めて重要な案件を顧問税理士に相談する前に決断してしまうケースもあり得る。

このあたりから内容がだんだん怪しくなってきました。金融機関の提案採否を判断するのは企業の裁量だし、飛び越えて話を持って行かれるような顧問税理士であれば所詮はその程度の信頼関係でしょうから、懸念がいまひとつぴんときません。

そして、日税連としての提言が何点か提示されております。「中小会計指針及び中小会計要領の普及・啓蒙」として、以下が書かれています。

税理士が作成した決算書の優位点として、中小会計指針、中小会計要領(以下、「中小会計指針等」という。に準拠していること、さらにチェックリストを作成・添付することにより準拠性が明確となり、会計の専門家である税理士としての高度な判断が反映、明示される点である。会計業務の自動化が進むほど、税理士による専門家としての判断が極めて重要となり、そのツールとして、中小会計指針等、チェックリストの重要度が増してくるものと思われる。

いやまあそれはそうですが…

チェックリスト自体がクラウド会計ソフトの一機能として提供される可能性には目を向けないのでしょうか。専門家としての判断が重要なのはそのとおりですが、従前の仕組み(専門家による経理情報作成とチェックリストによるチェック)に依拠しすぎている感があります。

そして一番がっかりなのは最後の一文。

上記で述べたとおり、FinTech に伴う新しい技術への対応は、基本的には個々の会員の判断、自己研さんによるものと考えられる。そのため、現時点で日税連において FinTech そのものの研究を行う必要性は乏しいものの、情報収集は継続し、会員に必要な情報を提供していくべきものと思われる。

FinTechのフォローは基本的に各税理士任せなわけですかそうですか。情報提供や研修も大事ですが、FinTechの台頭が従来の仕組みをまるごと塗り替え、専門家の地位を脅かすインパクトを持っている点について危機意識がまるで欠けてますね。

クラウド会計ソフトが実現する自動化により専門家の仕事量は一時的に減少するでしょうが、これらを活用した新たな業務モデルの定義が必要な点を踏まえ、もう少し踏み込んだ提言をしていただきたいところでした。

というわけで、FinTech界隈は動きも早く日々進化しているため、専門家としても受け身になるのでなく、積極的に情報収集に努めるのが肝要かと思われます。わざわざ報告書で提言されなくてもやってますけどね。まずはあれこれ悩まずとにかく使ってみて慣れてしまうのが早道なのは間違いありません。もっとも受け身になる以前にエンドユーザー側のクラウド会計導入事例が増える一方ですので、遅かれ早かれこの動きに追随できない(従来の仕組みにしがみつく)会計専門家は淘汰されていくのかもしれません。

 

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