CAATの全体像と個別テクニックについて網羅的に語ってくれる書籍がなかなかなかったのですが、このたび決定版が上梓されました。
筆者自身がCAAT導入トレーニングがや分析ソフトの販売を手がけている手前、あまり宣伝臭がでないように工夫してあります(まあ奥付に書いてありますけどね)。長年の経験にもとづくCAAT導入の必要性や具体的な利用テクニックは、今後広くCAATを利用する立場(外部監査人/内部監査人/被監査部門など)の良いリファレンスになると思います。
「内容紹介」より
今、監査業界の最もホットな話題といったら「コンピュータ支援監査技法(CAAT)」に間違いありません。 本書の帯には、「この一冊ですべてがわかる! 」とあり、「誰も教えてくれなかったCAATを基礎から徹底解説」、「108の最新事例で「不正がはびこる原因」と「監査人として今、必要な対策」を詳解! 」と続きます。 最近、「CAATを簡単に解説した本はないのか?」という問い合わせが、企業の方をはじめ、監査の専門家からも大変多く寄せられています。このような声に応えるために、この『CAAT基礎講座』は生まれました。 本書の最大の特徴は、108の事例を解説しながら、CAATが必要になってきた背景や基礎的知識を、丁寧に解説していることです。本書一冊でCAATの基礎的な知識を習得できます。 すべての監査人に読者層を設定し、コンピュータの難しい話は避け、極力平易な記述に努めています。豊富な事例と興味深いコラムを交互に織り交ぜることにより、最後まで途切れることなく読破することができるように工夫されています。
目次
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第I部 デトックス編 1 プロローグ~CAATへようこそ~
2 失われた監査の信頼
3 不正会計事件が起きる「18」の理由
4 CAAT導入を拒んできた「10」の理由
5 信頼されていない日本の監査
第II部 ナレッジ編
6 コンピュータと電子的監査証拠
7 電子帳簿保存法
8 必要十分性と可監査性
9 リスク・アプローチ
10 監査証拠の入手とCAAT
11 監査のための統計的知識
12 監査とサンプリング
13 データの構造
第III部 ファンクション編
14 データインポート/データの読み込み
15 ベンフォード分析
16 重複分析
17 ギャップ分析
18 階層化分析
19 エイジング分析
20 結合分析
21 ラウンド数値分析
22 集計分析
23 条件抽出分析
24 クリティカルパス
25 不正調査報告書の検証
26 なぜ実務では、CAAT専用のデータ分析ソフトウェアが使われるのか?
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「2 失われた監査の信頼」
著者が最も力を込めて主張したかったであろう記述パートです。日本の監査慣行が諸外国に比べ歪んだ歴史をたどっている点。結果としてCAATの普及が日本で周回遅れになったことの苛立ちが伝わってきます。業界の端くれにいる者として襟を正さなければならないと実感します。個々の監査人が最大限の努力を払っていたとしても、制度設計が間違っていることで効果的な監査が実現できていないとすれば大問題でして、不正が発見できないアプローチではいくら現場で頑張っても限度があるのでしょう。
「4 CAAT導入を拒んできた「10」の理由」
このパートが一番面白いです。 「CAATは表計算ソフトでもできる」 「CAATはIT監査人がすべき仕事」 といった誤解を正す記述の説得力は、著者自身が味わってきたCAATへの無理解に対するストレスの投影なのかもしれません。CAATそのものが従来の監査手法を拡張するものではなく今後の監査の基本的な手法として広く使われるべきであるという主張は深く頷ける内容であります。コンピュータ「を」でなく、コンピュータ「で」監査する風土がもっと日本で定着してほしいですね。
実は本書のメリットを一番享受できるのは外部監査人でも内部監査人でもなく、事業会社の被監査部門なのかもしれないです。CAATのテクニックを逃れるノウハウという意味ではなく、不正のない業務を推進しているのであればどのようにデータ提供して監査部門に(なるべく最小限の手間で)協力すべきなのか、という点において。
ともあれ、筆者の主張するところの「検出できない監査」や「責任を問われない監査」に安住する監査人の横面をはたいて目を覚まさせるインパクトがありそうな一冊。 (500ページ近くある大著なので実際に横面をはたいたらたぶん痛いです。やめましょう)
なお監査とサンプリングについては副読本としてこちらもおすすめ。サンプリングについてこれ以上やさしく解説している本は見たことありません。