[書籍]「Pythonではじめる 会計データサイエンス」データサイエンス視点とテクニックを身に着けたい会計人必読の書

土曜日 , 27, 5月 2023 [書籍]「Pythonではじめる 会計データサイエンス」データサイエンス視点とテクニックを身に着けたい会計人必読の書 はコメントを受け付けていません

会計データサイエンティストを目指す方の必読書が出ました。

雑誌『企業会計』連載時にも興味深く読んでいましたが、今回書籍になることでまとめて読めるのはありがたいです。書籍になると読後感がまた違いました。

本書は冒頭で対象読者ペルソナが明記されてるので、ご自身が向いている読者層かあらかじめ確認する目安になるでしょう。個人的には「中規模から大規模組織の経理部門所属」がターゲットに思えました。サンプルコードもついている親切設計なので、実際に手を動かしてみるのが肝要です。

以下、各章について読後の感想です。

第1部『会計データサイエンスの基礎知識』では、初学者向けにデータサイエンスの基礎知識を解説しています。

第1章 会計データサイエンスの準備体操

第2章 Python入門

では、データサイエンス初学者向けにPythonやNumPyの基礎解説があり、予備知識のない読者でもは入りやすくなっています。Google Colaboratoryのインストールから解説しているのはわかりやすいですね。NumPyやpandasの機能解説については既知の読者は読み飛ばしてよいですが、おさらいに読むのがよいでしょう。

第3章 数学入門

データサイエンスには不可欠の知識なので、この章を読んで眠くなるのでは始まらないです。頑張って読み切りましょう。

第2部『会計データサイエンスの実践』では、いくつかの実務的なユースケースをもとに、動作するPythonコードを用いての解説が続きます。

第4章 監査で使われる統計的サンプリングツールを実装しよう

第5章 会計データの特徴を理解して将来の売上を予測しよう

こちらの章は個人的に一番楽しく読みすすめられました。帰無仮説をはじめとする統計的サンプリングの解説を、コードまで落とし込んで解説した画期的なパートだと思います。季節変動のある売上データに基づく将来売上予測、というわかりやすいユースケースから、SARUMAモデルによる予測を解説。こちらも動作するコードで解説をわかりやすく表現していて、概念的な解説をより腹落ちしやすく伝える工夫が随所に見られました。

なお、統計的サンプリングについては発行年月は古いですがこちらの良書があるので、併せて参照するのがよいでしょう。

第6章 会計データを使って機械学習に挑戦しよう

会計データを使った機械学習への挑戦。機械学習の基本解説から、よりリアルなケースとしてたこ焼き屋の会計帳簿をもとにさまざまな分析からはじまり、決定木による顧客行動の分析やSVMによる掛け売り予測と資金繰り対応という実践的なテーマで分析を試みます。ここでも概念的な説明から実際のコードに落とし込むことで理解が容易な説明になっています。

第7章 会計データの異常検知をしよう

異常検知の問題設定にはじまり、正規分布に基づく異常値分析の解説です。この章で難易度が一気に上がりますが、会計監査の実務ではお馴染みのトピックを取り上げているので読み切りたいところです。深層学習の話題にも少し触れているのが興味深いですね。

第8章 データサイエンスを意思決定に活用しよう

ベイズ統計モデルによる不確実性モデリングや、自己回帰モデルによる在庫予測の解決、ロジスティック回帰モデルによる貸倒予測、生存時間モデルによる将来キャッシュフローの予測など、実践的な意思決定に用いるためのデータ分析がとりあげられています。サブスクリプション事業ではおなじみの離脱予測などのユースケースがあるので、SaaS企業の参考にもなるでしょう。こちらもコード盛りだくさんで消化不良になりそうですが、実際に動作させながら確認していくと面白さを味わえます。

第9章 データ分析基盤を構築しよう

会計データの特徴に始まり、効果的なデータ分析基盤の構築指針について解説しています。永遠のテーマではありますが、『データを何のために使うか』という根本的な問いかけは、データサイエンスに欠くことのできないものです。こちらも丁寧な解説が行われています。

参考文献それぞれに一言コメントがあるのがよいですが、章によってなかったりとばらつきがあるのは少し残念でした。複数著者だと符丁を合わせるのが難しいですね。

全体的に、会計データサイエンスの視点を掘り下げつつ実践的に理解したい方には格好の入門書だと思いますので強くおすすめいたします。本書はPythonやデータ分析の入門向けなので、より突っ込んだ深層学習や昨今のトレンドである生成AIにからめた解説触れていない点については、今後の続編に期待したいと思います。

なお、オビ部分にちょっとした遊び心があるので、実際に手に取って確かめてみましょう。