著者の一人である桑名直樹さん(freee法務部・弁護士)が前職関係者だったので、興味を持って購入した。自分でも以前に電子署名サービス紹介記事を書いたりもしているので、知識の突き合わせも兼ねて読了。
(略)
本書は、このような苦労を実際に経験し、悩みながら電子契約を導入・運用した経験を持つ5人の弁護士により執筆された。異なる業種や規模の会社の現場で電子契約の導入・運用を行った弁護士が、実際に導入・運用する上で相談を受け、悩んだポイントなどを持ち寄りQ&A形式で整理している。
まえがきより
このような前書きで始まり、実際内容はかなり実務寄り・運用寄りの一冊になっていて、これから導入しようとする企業には入り込みやすい内容になっている。序章で「導入予定なし」「導入検討中」「一部導入済」「完全導入済」の4つのステータスごとに、本書で読むべきポイントを適切にナビゲートしてくれている点も好感。
第1章 はじめに
第2章 検討に必要な知識
第3章 電子契約の導入・対象拡大等のプロジェクト進行
第4章 法的リスクの検討
第5章 法令遵守およびガバナンス強化のための取組み
第6章 円滑な導入・利用促進のための取組み
第7章 電子契約の運用
第8章 電子契約の対象拡大
第9章 契約類型ごとにみる導入の検討
第10章 その他の問題点
目次より
コメントは以下のとおり。
- 第2章ではGMOサイン・DocuSignを例にして具体的な操作方法を示すことで運用イメージを持ちやすくする工夫がなされていて良い。
- 第3章では「中小企業製造業」「SaaSベンチャー」「大手IT企業」「外資系製薬会社」のケースごとに導入の意思決定プロセスやスコープの検討など具体的な進め方を提示している。これは実際のケースに基づいた記載のため非常に詳しく記述されており、このパートを参考にするだけでも導入はスムーズに進められるだろう。
- 第4章では電子契約の難解な法体系をひもとき、法的リスクと対処法について記述。電子契約の有効性や訴訟に耐えるかどうかという観点での法的リスクが解説される。
- 第5章ではガバナンスの観点から電子契約の仕組みをどのように整備すべきかを概観。電子帳簿保存法の改正も踏まえ、規程の整備など具体的に取り組む作業についての示唆があり実務に有益。この章をもっとも興味深く読んだ。
- 第7章では運用サポート体制についての実務的視点からのポイントを解説。これも第3章と同様にインハウスの経験に基づく記載が中心なので、実際に壁に当たったときにどう動くべきかの指針に使える。
- 第8-10章では電子契約の法的整備や技術的解説、現行制度の問題点などが網羅的に解説される。電子契約の仕組みそのものを押さえるにはこの章でカバーできそう。
ということで、全体的には電子契約の仕組みの理解と特に運用面での実務的ポイントを提示するという観点からユニークに構成されていて良書といえるのだが、難点もいくつかあり。
- 重複・冗長的な記述が多い。電子署名の法的解釈の図が章ごとに何度も出てきたり。編著者の苦労はほのみえるが、全体的に見通しの悪い構成になってしまっていて残念。
- 構成の面では、概要・技術やツール・法的制度・導入プロジェクトの順番で解説されていればもう少しすっきりまとめられそうに思えたけれどこれも複数著者でのまとめの制約を感じる。
- 法令や図表、他章へのリファレンスをたどるのに紙の書籍はやはり限界があり、ハイパーリンクのありがたみを改めて実感。電子書籍になった暁にはこれらのリファレンスについてハイパーリンク対応是非お願いします。
ともあれ、電子契約を導入する羅針盤として好著だと思いますので是非手に取ってみましょう。
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